マルタ永住権の取得方法を徹底解説|EU圏への投資移住を検討する経営者へ

Ferry boat sailing on the ocean at sunset

EU圏の中で、「永住権が取りやすい」と言われる国がある。地中海に浮かぶ小国・マルタだ。

正直なところ、私がシンガポールに移住する際も、マルタは選択肢の一つとして真剣に検討した。面積は東京23区の半分以下、人口は約57万人(2024年末時点)。英語が公用語で、EU加盟国でありながらシェンゲン圏内での90日/180日のビザフリー短期渡航も手に入る。経営者として純粋に「使い勝手がいい」パスポート戦略の一環として魅力的な位置づけにある。

この記事では、マルタ永住権の取得方法を実務的な視点で整理する。制度の概要から申請の流れ、費用の目安、そしてよくある失敗例まで、経営者がM&Aや海外進出の意思決定をする際に使えるレベルの情報を届けたい。

マルタ永住権を「なんとなく良さそう」で終わらせず、自分のポートフォリオに組み込む価値があるかどうかを判断するための材料にしてほしい。


目次

マルタ永住権とは何か|MPRP制度の基本構造

MPRP(Malta Permanent Residence Programme)の概要

マルタ永住権の主な取得手段は、MPRP(Malta Permanent Residence Programme)と呼ばれる投資移住プログラムだ。2021年に旧制度(MRVP)から刷新され、現行の形になっている。

マルタ政府機関であるResidency Malta Agency(RMA)が管理しており、申請資格・審査基準も明確に公表されている(2026年時点)。なお、2025年1月および2025年7月22日に大規模な制度改正が行われており(それぞれLegal Notice 310 of 2024、Legal Notice 146 of 2025に基づく)、費用構造や要件が旧制度から大きく変わっている点に注意が必要だ。

仕組みとしてはシンプルで、不動産の購入または賃貸と、政府への寄付金・管理費の支払いを組み合わせることで永住権を取得できる。EU市民権とは異なるが、マルタ国内での居住権が永続的に認められる。

シェンゲン圏の移動との関係

ここは誤解している人が多いポイントなので、はっきり書く。

マルタ永住権を取得すると、シェンゲン圏内での90日/180日のビザフリー短期渡航は可能になる。ただし、これはEU市民権(マルタ国籍)が付与する長期滞在・居住の自由とは別物だ。シェンゲン圏への長期居住や就労の自由を求める場合は、マルタ国籍(citizenship)取得まで視野に入れる必要がある。

ただし、マルタ国内に居住できること自体がEUビジネスの拠点として十分な価値を持つケースもある。この「目的との整合性」を最初に確認しておくかどうかが、後の後悔を分ける。


マルタ永住権の取得要件|何が必要か

申請者の基本要件

2026年時点のMPRPの主な要件は以下の通りだ。

  • 年齢:18歳以上
  • 健康保険:マルタ国内をカバーする健康保険への加入(EU内で有効なもの)
  • 犯罪歴:無犯罪証明書が必要(本人および同伴家族)
  • 財政的自立:€500,000以上の資産(うち€150,000以上は金融資産)、または€650,000以上の資産(うち€75,000以上は金融資産)の保有が必要
  • 国籍制限:一部制裁対象国の国籍保持者は申請不可

日本人の場合、国籍上の制限は基本的にない。ただし、審査は「全体的な適格性」を見るため、過去の税務申告状況や資産の出所(AML観点)も精査される。

投資・寄付の要件(費用の全体像)

区分 内容 金額目安(2026年時点)
政府寄付金(購入・賃貸共通) 非返還型・統一 €37,000
不動産購入(全地域統一) 最低保有額 €375,000以上
不動産賃貸(全地域統一) 年額 €14,000以上
認定NGOへの寄付 非返還型 €2,000
管理・行政費用 申請時€15,000+承認後€45,000 合計€60,000
成人扶養家族追加費用 スポンサー・未成年を除く €7,500/人

※上記はRMA公表の一般的な情報を基にした目安であり、最新の正確な金額は公式サイトまたは認定代理人への確認を推奨する。

2025年7月22日の改正により、政府寄付金は購入・賃貸にかかわらず€37,000に統一された。また不動産の最低基準額も地域差が撤廃され、全地域一律の金額に改められている。旧制度の数字(購入時€30,000/賃貸時€60,000など)をもとに試算している情報には注意してほしい。

不動産購入ルートと賃貸ルートで政府寄付金の差がなくなった点は注目に値する。長期的に資産を持つ意思があるなら購入の方がコスト構造は有利になるが、流動性を確保したいなら賃貸も選択肢になる。どちらが合理的かは個人の資産運用方針次第だ。

また、2025年の改正では申請後に1年間の暫定居住許可(TRP)が付与される仕組みも導入されており、購入物件の即時賃貸も認められるようになっている。扶養家族の追加費用も従来の€10,000から€7,500へ引き下げられた。


申請の流れ|実際のプロセスを追う

Step 1:認定代理人(Authorised Registered Mandatary)の選定

MPRPでは、RMAに認定された代理人(ARM:Authorised Registered Mandatary)を通じた申請が必須だ。個人が直接申請することはできない。

代理人選定は慎重にやってほしい。ここで地雷を踏むと、書類不備や審査遅延の原因になる。複数の代理人から見積もりと対応の質を確認してから決めるのが現実的だ。代理人費用は別途発生する(目安は数千ユーロ〜)が、ここをケチるべきフェーズではない。

Step 2:書類準備と事前デューデリジェンス

申請に必要な主な書類は以下。

  • パスポートのコピー(本人・家族)
  • 無犯罪証明書
  • 資産証明書類(銀行残高証明・財務諸表など)
  • 収入証明(税務申告書など)
  • 健康保険証書
  • 不動産の売買契約書または賃貸契約書

日本の書類には公証・アポスティーユが必要になるケースがほとんどだ。この手続きだけで数週間かかることを頭に入れておくこと。

Step 3:申請と審査期間

書類が揃ったらARMを通じてRMAに申請。審査期間は公式には4〜6ヶ月程度とされているが、実務上は6〜12ヶ月かかるケースも多く、書類の状態や審査の込み具合によって変動する。実務でハマるのはこのフェーズで、「書類が揃っていると思ったら追加資料を求められた」というパターンが頻発する。

Step 4:承認後の手続き

承認通知が届いたら、実際の投資実行(不動産契約・寄付金の支払い)を行い、居住許可証(Residence Certificate)を受け取る形になる。


税務上の扱い|永住権と課税の関係

マルタの税制の基本構造

ここが経営者として一番気になるポイントだろう。

マルタはリミテーション・オブ・レミッタンス課税(Remittance Basis)という概念を持つ。簡単に言うと、マルタ源泉でない所得は、マルタ国内に送金しない限り原則課税されない仕組みが一部適用される。ただし、これは国籍やステータスによって条件が異なり、専門家でも見解が分かれる複雑な領域だ。

なお、非ドミサイル(Non-Domicile)ステータスで外国源泉所得が年間€35,000以上ある場合にマルタへの全額送金をしていないときは、年間最低税額として€5,000が適用される点にも注意が必要だ。また、マルタに183日以上滞在するとその年の税務居住者とみなされる。

ここは私も「断言」を避けたいところで、マルタの税務に精通したアドバイザーなしに判断しないほうがいい。

日本の税務との関係

注意してほしいのが、マルタ永住権を取得しても日本の税務上の居住者ステータスは別問題であるという点だ。

日本の非居住者として認定されるには、国税庁の基準に基づく「生活の本拠」の移転が必要で、永住権の取得だけが自動的に非居住者扱いになる根拠にはならない。2026年時点の国税庁の解釈では、実際の滞在日数や家族・資産の所在地など複数の要因が判断に影響する。

「マルタ永住権を取れば日本の税金がなくなる」という理解は危険だ。マルタ移住を節税目的で活用したい場合は、日本の税理士とマルタの税務専門家の両方に確認すること。これは本当に重要なので強調しておく。


シンガポール在住経営者の視点|なぜマルタが選択肢に上がるのか

私自身は最終的にシンガポールを選んだが、マルタは「EU圏との接点を持ちながら英語で生活したい」という経営者には今も有力な選択肢だと思っている。

マリーナベイ周辺の起業家界隈では、「シンガポールだけに賭けるのはリスク」という話がよく出る。地政学リスクや規制変化への備えとして、複数の居住権・永住権を組み合わせるアプローチが現実的な選択になってきている。

マルタの強みは何か。英語が通じる、気候が良い、EU内でのビジネス展開がしやすい、コンプライアンス観点で「信頼できる管轄」として見られやすい、といった点だ。

ただし、シンガポールと比べると生活インフラ・ビジネスエコシステムの成熟度は段違いだ。マルタをオペレーションの主拠点として使うのは正直なところ無理があると思う。「EU圏に足場を持つ」という戦略的な意味を持たせつつ、実際の事業はシンガポールや他の拠点で動かすというハイブリッドが現実解だろう。

M&Aの文脈で言えば、マルタ法人を使ったEU域内のディール構造が有利になるケースは存在する。ただしこれは案件依存で、必ずしもマルタ永住権が必須というわけでもない。「マルタ永住権があればM&Aが有利になる」と単純化するのは違う、というのが私の見立てだ。


よくある失敗例と注意点

失敗1:「英語が通じるから楽だろう」という過信

マルタは英語が公用語だが、現地の行政手続きは独自のプロセスがある。書類の形式や認証要件について、日本側の公証機関と現地側で認識がずれることがある。ARMとの事前確認を怠ると、書類の差し戻しで申請が数ヶ月単位で遅れる。

失敗2:不動産の取り扱いを軽く見る

マルタの不動産市場は規模が小さく、特定エリアの物件に人気が集中する。「申請のために購入したがすぐに売れない」という流動性リスクは実際に起きる話だ。特に5年間の保有要件(※最新要件は要確認)を念頭に置いて、出口まで含めた資産戦略を立てるべきだ。

失敗3:日本の税務整理を後回しにする

前述の通り、マルタ永住権取得と日本の税務上の居住者ステータスは連動しない。「永住権を取ってから考える」では遅い。移住前の事前整理が必須で、国外転出税(Exit Tax)の問題も状況によっては発生する。これは早めに国内の税理士に相談してほしい。

失敗4:代理人をコストだけで選ぶ

安価なARMを選んで後で困るパターンはあるあるだ。マルタ移住の経験が豊富で、日本人クライアントへの対応実績がある代理人かどうかを確認することを強くすすめる。


まとめ|マルタ永住権は「戦略的な選択肢」として使える

正直に言うと、マルタ永住権が「すべてを解決する万能策」だとは思っていない。

節税だけが目的なら、シンガポールやUAEのほうが実績があり、インフラも整っている。でも「EU圏に法的な足場を持ちたい」「英語環境で地中海に生活拠点を作りたい」「複数の永住権を戦略的に組み合わせたい」という目的がある経営者にとっては、MPRPは費用対効果の高い手段になり得る。

マルタ永住権の取得方法を検討するなら、まず「自分にとって何のために取るのか」を言語化することから始めてほしい。目的が曖昧なまま動くと、費用と時間だけ消えていく。

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この記事を書いた人

神田 隆司(かんだ りゅうじ)|シンガポール在住20年。学生として渡星後、LTVPを経て永住権(PR)を取得。金融業界(海外取引所マーケティング)出身で、現在は現地で複数の事業を運営する経営者。海外法人設立・M&Aの実務経験を持ち、海外資産運用・国際税務・移住の実情を経営者目線で発信。

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