はじめに
ここ最近、シンガポール在住の日本人経営者コミュニティで「ギリシャのゴールデンビザ」の話題が増えている。正直なところ、2022年〜2023年あたりまではポルトガルやマルタが話題の中心だったが、ポルトガルが不動産投資ルートを廃止した2023年10月(Mais Habitação法)以降、ギリシャへの注目度が一気に上がった感覚がある。
ただ、情報が玉石混交なのも事実だ。「250万円から取れる」という古い情報が今でも出回っているし、不動産仲介業者が自分たちに都合の良い物件を「ゴールデンビザ対象」として売り込んでいるケースも見かける。
この記事では、ギリシャ ゴールデンビザを不動産投資で取得する場合の最新条件・申請フロー・税務上の論点・そして「これは本当にあなたに必要か?」という判断基準まで、実務に即して書く。概論ではなく、意思決定のための情報として使ってほしい。
ギリシャ ゴールデンビザとは何か:基本の整理
制度の概要と背景
ギリシャのゴールデンビザ(正式名称:Greek Golden Visa Program、ギリシャ語では「Άδεια Διαμονής για Επενδυτές」)は、2013年に導入された投資家向け居住許可制度だ。EU非加盟国の外国人が一定額以上の投資を行うことで、5年更新可能な居住許可を取得できる。
※2026年8月時点、出典:ギリシャ移民庁 (Ministry of Migration and Asylum) / Henley & Partners
最大のポイントはシェンゲン協定エリアへの自由な移動が可能になる点で、EU永住権・市民権への道筋としても機能する。ただし「居住権」であって「市民権」ではない点は最初に頭に入れておく必要がある。
Reference: “The Greek Golden Visa Programme grants a five-year residence permit to non-EU nationals who make qualifying investments in Greece, including real estate purchases.” (enterprise.greece.gr) / 訳:ギリシャ ゴールデンビザプログラムは、不動産購入を含む適格投資を行うEU域外国籍者に対し、5年間の居住許可を付与する。
最低投資額:2024年の改正で大幅引き上げ
ここが最も重要な変更点だ。2024年の改正で最低投資額が大きく変わった。旧来の「25万ユーロ」という数字は、もはや多くのエリアで適用されない。
2026年時点の投資額区分は以下の通り(要最新確認):
| エリア区分 | 最低投資額 |
|---|---|
| アテネ中心部・テッサロニキ・ミコノス・サントリーニ・南エーゲ海一部 | 800,000ユーロ |
| 上記以外のギリシャ全土 | 400,000ユーロ |
| 商業用不動産の住居転用(全国) | 250,000ユーロ |
| 文化財建造物の修復(全国) | 250,000ユーロ |
※2026年8月時点、出典:ギリシャ議会 Law 5100/2024
なお、Zone A・Zone B(高需要エリアおよびその他全土)ともに、投資は単一物件かつ120㎡以上の物件で行う必要がある(Zone Cの商業用転用・文化財修復物件には面積制限なし)。
Reference: “As of September 2024, the minimum investment threshold for real estate in high-demand areas such as Attica, Thessaloniki, Mykonos, Santorini and certain island municipalities has been raised to EUR 800,000.” (mfa.gr) / 訳:2024年9月以降、アッティカ・テッサロニキ・ミコノス・サントリーニ等の需要の高いエリアでは、不動産投資の最低投資額が80万ユーロに引き上げられた。
日本円換算(1ユーロ=約165円・2026年時点概算)で、800万ユーロゾーンなら約1億3,200万円。これを「安い」と見るか「高い」と見るかは、読者の資産規模次第だが、ポルトガルが廃止された後の欧州ゴールデンビザ市場の中では依然として競争力のある水準だ。
不動産投資での申請フロー:実務で詰まるポイント
Step 1:物件選定と売買契約
一番の落とし穴はここだ。「ゴールデンビザ対象物件」と謳われていても、実際には条件を満たしていないケースがある。具体的には:
- 複数名による共同購入で投資額要件を満たそうとするケース(基本的にNGだが例外規定あり)
- 農地・保護地域に指定された土地が含まれる物件
- 登記上の問題(抵当権・係争中の物件)
ギリシャの不動産登記制度は日本と異なり、登記の正確性が担保されていないケースがある。弁護士(Greek lawyer)による物件デューデリジェンスは必須だ。費用は物件価格の1〜2%が相場感。
Step 2:ギリシャ国内の税番号(AFM)取得
不動産取得前にギリシャの税番号(AFM:Arithmós Forologikoú Mētroou)を取得する必要がある。これは現地での銀行口座開設にも必要で、ビザ申請の前段として避けられない手続きだ。
Step 3:移民局へのビザ申請
不動産登記完了後、移民局(Directorate of Migration Policy)に申請する。2026年時点では申請の急増によりバックログ(約50,000件)が発生しており、居住許可カード発行まで4〜12ヶ月かかるケースが一般的だ。「申請すれば3ヶ月で取れる」という情報は鵜呑みにしない方が良い。
※2026年8月時点、出典:ギリシャ移民庁
申請にかかる費用の概算
| 費用項目 | 概算 |
|---|---|
| 不動産取得税(移転税) | 物件価格の約3.09% |
| 公証人費用 | 物件価格の約1〜1.5% |
| 弁護士費用 | 物件価格の1〜2% |
| 不動産仲介手数料 | 物件価格の2〜4% |
| ゴールデンビザ申請手数料(1人) | 2,000ユーロ(更新時も同額) |
| 家族同伴の場合(配偶者・子) | 成人家族150ユーロ/人(+電子カード発行料16ユーロ)、18歳未満は免除 |
※2026年8月時点、出典:ギリシャ移民庁 / AADE (Independent Authority for Public Revenue) / e-paravolo
ギリシャ不動産の収益性:投資として成立するか
賃貸利回りと市場動向
正直なところ、ギリシャ不動産を純粋な「利回り投資」として考えると、話は複雑になる。
アテネの人気エリア(コロナキ、グリファダ周辺)でのコンドミニアムの賃貸利回りは3〜5%程度が相場感。短期賃貸でうまく回せば6〜8%に乗ることもあるが、これはオペレーション次第だ。サントリーニ・ミコノスは観光需要で短期賃貸の収益性は高いが、物件価格が800,000ユーロ基準エリアになるため、利回りの計算は変わる。
※2026年8月時点、出典:Bank of Greece / 民間データ
Reference: “Athens residential property prices rose by approximately 12% in 2023, with the trend continuing into 2024 driven by strong tourism and foreign buyer demand.” (bankofgreece.gr) / 訳:アテネの住宅価格は2023年に約12%上昇し、観光需要と外国人購入者需要に支えられ2024年も上昇傾向が続いた。
キャピタルゲイン狙いで見ると、アテネは2018年以降一貫して値上がりしており、投資タイミングとしては既に「底値拾い」の時期は過ぎた感がある。それでも欧州の他主要都市(ロンドン・パリ・ミラノ)と比較すると割安感は残っている。
短期賃貸規制について
2024年9月の改正(Law 5100/2024)により、ゴールデンビザ対象物件はAirbnb等の短期賃貸が禁止され、長期賃貸のみ可能となった。日本の京都や東京でも起きたことがアテネでも起きつつある流れの中で、短期賃貸前提で収益計算していた場合は計画の見直しが必要だ。
※2026年8月時点、出典:ギリシャ議会 Law 5100/2024
シンガポール在住経営者の視点:「なぜギリシャか」を問い直す
シンガポールに住んでいると、「なぜわざわざ欧州のビザが必要か」という問いに向き合う機会が多い。シンガポールのパスポートは世界最強クラスだが、残念ながら日本パスポートも実はシェンゲン協定国に対してビザなし短期滞在(90日/180日)は既に可能だ。
※2026年8月時点、出典:外務省 / European Commission
では日本人経営者がギリシャ ゴールデンビザを取る「実際の動機」は何か。私が見聞きする限り、大きく3つに分類される。
① EU内での長期滞在・生活拠点確保
子供のEU圏内での教育や、欧州でのビジネス展開を見据えた生活拠点。これは合理的な動機だ。
② パスポートの分散(将来的な市民権取得)
ギリシャの場合、7年間の継続居住(年183日以上の滞在が必要)で市民権申請が可能になる。「プランB」的な位置づけで持ちたいという経営者は一定数いる。ただし「7年間実際にギリシャに住む」というのは、シンガポールや日本で事業を持つ人間にとって現実的かどうかは冷静に考えてほしい。
※2026年8月時点、出典:ギリシャ市民権法 / Ministry of Interior
③ 不動産投資としての純粋な資産分散
ユーロ建て資産・実物資産としての位置づけ。日本円の減価リスクヘッジとして考えるのは理解できる。
私自身も海外でのM&A・事業買収の経験があるが、「国籍・居住権の分散」が実務上の選択肢を広げることは確かだ。銀行口座の開設しやすさ、投資家向けの信用力、次世代への資産承継の選択肢、いずれも変わってくる。ただし、取得後の維持コスト(管理費・税務申告・弁護士費用)は継続的にかかる。「取ったはいいが持て余す」という話も聞く。
よくある失敗例・注意点:実務でハマるポイント
失敗①:「対象エリア」の確認不足
繰り返しになるが、800,000ユーロゾーンと400,000ユーロゾーンの境界は複雑だ。「島だから地方扱い」と思っていたらミコノスやサントリーニは高額ゾーンだったというケースは、あるあるだ。物件を見る前に必ずエリア区分を確認する。
失敗②:不動産登記リスクの軽視
ギリシャの不動産登記は「Cadastre(カダストレ)」と呼ばれるシステムへの移行が進行中だが、全土での整備は完了していない。旧来の「抵当権が登記されていない物件に抵当権がついていた」という問題は今でも発生する。ケチって弁護士を省くと後で痛い目を見る。
失敗③:為替リスクの軽視
円建てで計算すると投資額が変動する。1ユーロ150円時代に計算していたら、現在では実質負担が2〜3割増えているという話は珍しくない。ユーロ建てで資金を確保するタイミングと方法は、FXリスクも含めて考える必要がある。
失敗④:税務申告の複雑さ
ギリシャ居住者(居住許可保有者)として不動産収益を得た場合、ギリシャでの確定申告義務が生じる可能性がある。加えて、日本の税務上の居住判定・CRS(共通報告基準)への対応も絡む。シンガポールやUAEに住んでいる場合との関係も複雑だ。「ビザを取ったら税務がどうなるか」は、取得前に日本・ギリシャ双方の税務専門家に確認することを強くすすめる。
他の投資移住プログラムとの比較
2026年時点でギリシャ ゴールデンビザと競合する主要プログラムの比較を整理する(情報は一般的な公開情報に基づき、最新確認要)。
| プログラム | 最低投資額(不動産) | 居住義務 | 市民権への道 | EU移動自由 |
|---|---|---|---|---|
| ギリシャ ゴールデンビザ | 40万〜80万ユーロ | なし | 7年居住後申請可 | あり(シェンゲン) |
| マルタ永住権(MPRP) | 35万〜65万ユーロ(購入)/賃貸も可 | なし(居住義務なし) | 別途帰化プログラム | あり(シェンゲン) |
| スペイン ゴールデンビザ | 2025年4月3日廃止(Organic Law 1/2025による) | — | — | — |
| ポルトガル ゴールデンビザ | 不動産は実質廃止 | 年14日以上 | 5年後申請可 | あり(シェンゲン) |
| UAE ゴールデンビザ | 200万AED(約54.5万米ドル)以上 | 居住義務なし(180日以上のUAE外滞在でもステータス維持可能) | 市民権への道はほぼなし | なし |
※2026年8月時点、出典:ギリシャ議会 Law 5100/2024 / Residency Malta Agency / Organic Law 1/2025 / Portuguese Mais Habitação Law (Law 56/2023) / UAE ICP (Federal Authority for Identity, Citizenship, Customs and Port Security)
スペインは2025年4月3日に既に廃止済みで、ギリシャは現状EU内でシェンゲン移動権を確保しつつ居住義務なしで持てるビザとして最も使いやすい選択肢の一つだ。タイミングとしては動くなら早い方が良いという見方もある。
個人的な見解:私がギリシャ ゴールデンビザをどう捉えているか
これは私の主観だが、ギリシャ ゴールデンビザは「生活拠点をギリシャに移したい人」よりも、「欧州への選択肢を持ちたい事業家・資産家」向けのツールだと思っている。
不動産としての投資リターンだけを追いたいなら、正直もっと利回りの高い選択肢はある。でも「ユーロ建て実物資産+EUへのアクセス権+将来的な市民権オプション」のセットとして見ると、一定の合理性がある。
私自身がM&A・事業買収で海外の複数管轄に資産・拠点を持つ経験から言うと、「選択肢を増やすコスト」は思ったより高くないことが多い。ただし「選択肢を持ったまま放置するコスト」は意外と積み上がる。取得後のメンテナンス(更新・税務・物件管理)まで含めたトータルコストで判断してほしい。
まとめ:「あなたに必要か」を問う3つの判断軸
教科書的なまとめではなく、意思決定のための問いを3つ置いておく。
問い1:「居住権」と「市民権」のどちらが本当の目的か。
居住権だけが目的なら、UAE ゴールデンビザの方がシンプルで安い場合もある。EUの市民権・パスポートまで視野に入れているなら、ギリシャは有力な選択肢だ。
問い2:物件購入後のオペレーションを誰が担うか。
遠隔地でのギリシャ不動産管理は、信頼できる現地管理会社なしには難しい。シンガポールや東京から「放置」できるか、しっかり考える。
問い3:家族を含めた長期的なライフプランに合っているか。
子供の教育・配偶者のキャリア・親の介護など、家族全体の文脈で考えた時に「EU居住権」がどれだけの価値を持つかは、家庭環境によって大きく変わる。
ギリシャ ゴールデンビザは「持ってて損はない」カードの一枚かもしれないが、それが「あなたのポートフォリオに今必要なカードか」は別の話だ。
より具体的な判断をしたい方へ
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、税務・法務・投資判断は必ず専門家にご相談ください。情報は2026年時点のものであり、法改正等で変更される場合があります。

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